この日、会場では来場者のみなさんにお茶を提供しました。お茶を入れたカップは、洗びん工場の吉川商店さんからお借りした蓋付きのリユースカップ(写真左)。
こちらのレンタル代は、洗浄費用込みで1つあたり50円。ちなみに、祇園祭などで活躍している、エコトーンさんの蓋なしリユースカップ(写真真ん中、右)は、洗浄費込みで30円〜です。
値段をきいて、「高い!」「そんなに払う気になれないよー」と思われる方は多いかも。それでは、使い捨てカップのお値段はどうでしょう?
たとえば、とあるコーヒーショップで実際に使われている紙コップと蓋は、仕入れ価格でそれぞれ20円と16円、合わせて36円です。つまり、500円のコーヒーをテイクアウトしたら、そのうち消費税分以上を、コーヒーではなく、容器にお金を支払っているということ。
それでは、この容器がデポジット制で、返却したときに容器代が返ってくるとしたら?
あなたはどんな選択をするでしょうか。
たとえばドイツには、「RECUP(リカップ)」、「REBOWL(リボウル)」というテイクアウト容器のデポジットシステムがあります。これは、お客さんがカップに1ユーロ、ボウルに5ユーロのデポジットを支払い、容器返却時に返金してもらうというもの。利用可能店舗はドイツ全土に20,000店以上あり、どこのお店でも容器を返却できるのが便利なところです。
RECUP社の収入源は、お店から支払われる月額システム料金(25〜45ユーロ)。この料金は、1日のテイクアウト注文が12件を超す店舗では、使い捨て容器を購入するよりコストが安くなるように設定されています。
ドイツでこの仕組みが広がった背景には、法律の大きな後押しがありました。2023年1月、ドイツ政府は、持ち帰り用の食料・飲料品を販売する一定規模以上のレストラン・カフェ・ケータリングなどで、使い捨て容器だけでなく、リユース容器を選択肢としてお客さんに提供することを義務付けました。加えて、提供価格は、使い捨て容器よりリユース容器を安価にすることも義務付け。これにより、消費者が自然とリユース容器を選択したくなるようなシステムを作ったのです。
日本でも、こんなふうにリユース容器が色んなお店で選べるようになるといいなぁ。たとえば、いきなり日本全土は無理でも、まずは京都から。「それを実現してくれるのはエコトーンさんなのでは?」という司会からの問いかけに、エコトーンの太田さんは、以下のような背景を踏まえながら答えてくださいました。
まず、ヨーロッパでリユース食器が広がったのは、お土産食器として広まった部分が大きいということ。クリスマスマーケットなどのイベント会場でリユース容器を使用すると、それを持ち帰ってコレクションする人がいる。すべての容器がお店に返却されるわけではないけれど、それも含めて「啓発のため」と考えられているのだそうです。
一方、日本では、容器を回収して洗浄するということを完璧にやろうとしていて、これ自体は環境負荷が低く素晴らしいことだけれど、コストがかかるためになかなか広まらない。なので、そのハードルを下げようと、現在、アプリなどを使ったさまざまなテイクアウトの仕組みが実験されているそうです(下図)。
容器づくりは、とても費用のかかること。新しい形のリユースカップを作ろうとすると、なんと金型だけで数百万を要するのだそうです。そして容器代が高くなるとデポジット代が高くなり、利用に抵抗感を覚える人が増えてしまう。
こうした事情の中で、コスト面のリスクを避けながらリユースカップを広めていくためには、ある程度のマーケットが求められます。だからこそ大切なのは、「中身」としてどんなものを売るか、どういったものが日常的に選び取られるかということ。「梅田さんが口にした『おいしく、たのしく』というキーワードは、そのためにも大切になってくるかもしれない」と太田さん。リユースの仕組みを日常的にするために仕掛けを色々としてきたが、まだ不十分。けれどマーケットとしては、ここ20年ほどでだいぶ広がってきたと、リユース容器普及のむずかしさと可能性を伝えてくださいました。
ちなみに、カップ以外の使い捨て容器の値段は以下の通り。価格帯には幅がありますが、意外な高値にびっくりするのではないでしょうか?
こうした容器の値段を見て、会場からは「これだけでもびっくりする値段だが、1ヶ月でどれだけの値段になるか調べたら面白いと思う」との声が。「最近の大学生は、スマホ代が高くて遊ぶお金がない、という話を聞くが、容器包装を削減するとどれだけ生活の自由度が増すか、という実験をしてもらったら面白いと思う」という調査アイディアが飛び出しました。
また、店頭で包装資材の値段を知らせてみたら、消費者の意識も変わるのでは? との意見もありました。実際、斗々屋さんでは中身とデポジット容器代は別々になっているため、お客さんは容器の値段を意識せざるを得ません。たとえば卵も、卵とケースをバラバラで売ることで、容器の意外な高さを知ってもらう機会になります。
これを受けて、スーパーマーケットでも、容器代を表示してみたらどうだろう。お客さんの意識は変わらないだろうか? でもそうすると、容器を購入しない(=持参容器やデポジット容器で買い物できる)選択肢を用意しないとフェアじゃないよね? 鮮魚、精肉ならデポジット容器も試しやすいのでは?
と、さまざまな意見が出ました。次回はここからさらに踏み込んで、容器を取り巻く実態について、消費者と事業者がそれぞれにどんな考えを持っているのか、理解を深めたいと思います。
筆者:むるま
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